Oct 03, 2025
50年後も聴き続けたい美しい旋律 #09「パプリカ」
50年後も聴き続けたい美しい旋律
今回は、エバーグリーンな魅力で多くの人の心を癒すFoorinの「パプリカ」をご紹介します。
Prologue -「シンプル」を極めることの難しさ -
私がまだ小学生だった頃、
通っていた書道教室の先生に次のような質問をしたことがありました。
「(書道においての) 一番難しい漢字は何ですか?」
「世の中にはどんな難しい漢字があるのだろう?」という好奇心から、
「憂鬱」のような画数の多い超難読漢字を期待して質問したのですが、
先生から返ってきた答えは、私の予想をいい意味で裏切るものでした。
「一番難しい漢字は、漢数字の「一」だと思う。」
一瞬啞然としましたが、先生は続けて次のように説明してくれました。
漢数字の「一」は、画数も一番少なく、簡単な字のように思えるけど、
書いた時のバランスであったり、カッコ良く見せるのがとても難しい。
だから、一番簡単だと思える「一」が、実は一番難しい漢字なんだよ!
「一番簡単だから一番難しい」という先生の言葉は予想外でしたが、
「簡単なものほど奥が深い」ということを知るきっかけになりました。
「シンプル」を極めることに加えて、それに伴うプロセスの重要性を、
子供の頃から意識して過ごせたのは、ラッキーだったと思っています。
その後の私の人生にも少なからず影響を与えたと言って良いでしょう。
今回ご紹介する「パプリカ」も、シンプルを追求した作品と言えます。
どうして、こんなにも多くの日本人に愛される音楽作品になったのか?
それでは、「パプリカ」の魅力をシンプルにご紹介していきましょう!
Chapter 1:「米津玄師が手掛けた」という付加価値の重要性
「(NHK) 2020応援ソングプロジェクト」の楽曲でもある「パプリカ」。
この老若男女から愛されるエバーグリーンな楽曲を歌っているのは、
小中学生のメンバーで構成された音楽ユニット「Foorin (フーリン) 」。
あどけないダンスが印象的なミュージックビデオが社会現象となり、
リリースした翌年 (2019年) には日本レコード大賞を受賞するなど、
「パプリカ」は日本中で旋風を巻き起こし、大ヒットを記録します。
本楽曲が社会現象になるほどヒットした最大の理由は一体何なのか?
もちろん、楽曲そのもののクオリティが素晴らしいことは明白です。
ですが、本楽曲には、それ以上の付加価値が存在すると思うのです。
その付加価値を語る上で絶対に欠かすことのできない人物がいます。
それは、本楽曲を手掛けた人気ミュージシャンの米津玄師さんです。
(8thシングル)「Lemon」の大ヒットなどで知られる米津玄師さんは、
今や日本を代表する音楽クリエイターと言っても過言ではありません。
そのような人物が、時代の最先端サウンドを突き詰めるのではなく、
老若男女に愛されるような作品で新たな境地を模索するチャレンジ。
そして、それが結果として多くの人々に愛される作品へと昇華する。
これは、日本の音楽界においてとても素晴らしいことだと思います。
性別や年齢、ましてや国境すらも飛び越えてしまう音楽の醍醐味を、
改めて日本のリスナーやミュージシャンに知らしめた「パプリカ」。
時代のトップクリエイターが、音楽の原点を創造することの意義を
簡潔に示したことで、多くのクリエイターが嫉妬したことでしょう。
「パプリカ」に追いつき追い越せから生まれるであろう新たな名曲。
日本の未来の音楽シーンに少なからず影響を与えた本楽曲の存在は、
リスナーよりもクリエイターにとって大きな刺激になったはずです。
Chapter 2:「シンプル」に深みを与える楽曲構成
「パプリカ」の楽曲構成は、一聴すると簡単なように思えますが、
メロディーライン以外にも、実は色々と仕掛けが施されています。
- イントロ -
シンプルなドラムのリズムのみで構成される短いイントロですが、
バックに子供たちが仲良くじゃれ合っている音源を入れています。
この部分は、通常であれば、必要のないギミックだと思いますが、
本楽曲のイメージを構築する上でもの凄くプラスになっています。
全体的に優しい音色で奏でられるサウンドアレンジもそうですが、
このじゃれ合い部分を最初に組み込むことで温かみがより際立ち、
楽曲そのものに何とも言えない「無垢」な印象を纏わせています。
- A・Bメロ -
AメロとBメロを比べてみると、主旋律はもちろん異なるのですが、
歌いだし部分に関しては、どちらも同じ譜割りを繰り返しています。
(Aメロ:曲がり くねりの部分 Bメロ:夏が来る 影が立つの部分)
この部分は、童謡などの子供向けの楽曲によく使われる手法ですが、
同じ言葉 (歌詞) を配置しない所に米津さんのセンスが感じられます。
加えて、Aメロは同じ音程なのに、Bメロは音程を微妙に変えている。
歌いやすいシンプルな楽曲構成の中に絶妙な違和感を持たせる旋律。
違和感を違和感に感じさせない細かいテクニックが随所に光ります。
もちろん、サウンドアレンジにも飽きさせない工夫が施されており、
リズムパターンだけでなく、バックの音もA・Bメロで変えています。
とてもシンプルですが、サビへの期待感を高める良いアレンジです。
- サビ -
サビは楽曲の主役ですが、中でも一番目立つ部分がサビ始まりです。
そのサビ始まり部分にタイトルの「パプリカ」を配置していますが、
ここに本楽曲の魅力が詰まっていると言っても過言ではありません。
最初に注目すべきは、歌詞の中で突然登場するカタカナの響きです。
Aメロ~Bメロまでの歌詞は、日本語のみで構成されていましたが、
サビ始めにカタカナを入れることで心地良い違和感を与えています。
半濁音二文字から始まる「パプリカ」は、インパクトも抜群ですね!
ですが、最も注目すべきなのは、歌詞ではなく、サビ始めの譜割り。
この部分の譜割りを見てみると、Bメロの最初(の4文字)と同じです。
つまりは、Bメロとサビの導入部分が同じリズム構成になっています。
こうすることで、サビの音程と歌詞のインパクトがより際立ちます。
しかも、サビでは最後に休符を入れて微妙にリズムを変えています。
(Bメロ4文字目は四分音符だが、サビ4文字目は八分音符+八分休符。
分かり易く言うと、4文字目の音符の長さをわざと半分にしている。)
シンプルな楽曲構成の中に自然に溶け込む通好みの細かいギミック。
懐かしさと新しさが共存する唯一無二の世界観がここに存在します。
音楽理論的なことを言えば、A・Bメロとサビではキーが異なるなど、
他にも色々と面白い仕掛けが施されているのですが、何と言っても、
老若男女問わず「良い曲」だと素直に思えることが本当に素晴らしい。
そう考えると、A・Bメロも含めてサビと言っても良いかも知れません。
本楽曲には、音楽理論だけでは語れない何か不思議な魅力があります。
Epilogue - 究極の「最高」とは -
物事に賛辞を贈る言葉としてよく使われる「最高」の二文字。
色々なシチュエーションで使用できるとても便利な言葉です。
「最高」という言葉のイメージは、それこそ千差万別ですが、
おそらく、多くの人が思う「最高」のイメージは、
ごく僅かの人しか手にすることのできないような、
程度の一番高い高級品のようなイメージではないでしょうか?
もちろん、それはそれで最高の意味として正しいと思います。
ですが、誰にでも手に入れることができて、その良さが分かる。
そういうものこそ、究極の最高と言えるのではないでしょうか?
そう考えると、人間にとっての最高とは、
高級な洋服や食料品を得ることではなく、
「今ここに生きている」ということに尽きるのかもしれません。
今回、「パプリカ」をじっくり聴いてみてしみじみ思ったのは、
「生きていること」は普通ではなく特別な事なんだということ。
明日も、今と変わらない自分が存在する。
これは、ある意味、これ以上ない幸せなことかもしれませんね!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
パプリカ - Foorin (2018)
Lyrics:米津玄師 / Music:米津玄師
今回は、エバーグリーンな魅力で多くの人の心を癒すFoorinの「パプリカ」をご紹介します。
Prologue -「シンプル」を極めることの難しさ -
私がまだ小学生だった頃、
通っていた書道教室の先生に次のような質問をしたことがありました。
「(書道においての) 一番難しい漢字は何ですか?」
「世の中にはどんな難しい漢字があるのだろう?」という好奇心から、
「憂鬱」のような画数の多い超難読漢字を期待して質問したのですが、
先生から返ってきた答えは、私の予想をいい意味で裏切るものでした。
「一番難しい漢字は、漢数字の「一」だと思う。」
一瞬啞然としましたが、先生は続けて次のように説明してくれました。
漢数字の「一」は、画数も一番少なく、簡単な字のように思えるけど、
書いた時のバランスであったり、カッコ良く見せるのがとても難しい。
だから、一番簡単だと思える「一」が、実は一番難しい漢字なんだよ!
「一番簡単だから一番難しい」という先生の言葉は予想外でしたが、
「簡単なものほど奥が深い」ということを知るきっかけになりました。
「シンプル」を極めることに加えて、それに伴うプロセスの重要性を、
子供の頃から意識して過ごせたのは、ラッキーだったと思っています。
その後の私の人生にも少なからず影響を与えたと言って良いでしょう。
今回ご紹介する「パプリカ」も、シンプルを追求した作品と言えます。
どうして、こんなにも多くの日本人に愛される音楽作品になったのか?
それでは、「パプリカ」の魅力をシンプルにご紹介していきましょう!
Chapter 1:「米津玄師が手掛けた」という付加価値の重要性
「(NHK) 2020応援ソングプロジェクト」の楽曲でもある「パプリカ」。
この老若男女から愛されるエバーグリーンな楽曲を歌っているのは、
小中学生のメンバーで構成された音楽ユニット「Foorin (フーリン) 」。
あどけないダンスが印象的なミュージックビデオが社会現象となり、
リリースした翌年 (2019年) には日本レコード大賞を受賞するなど、
「パプリカ」は日本中で旋風を巻き起こし、大ヒットを記録します。
本楽曲が社会現象になるほどヒットした最大の理由は一体何なのか?
もちろん、楽曲そのもののクオリティが素晴らしいことは明白です。
ですが、本楽曲には、それ以上の付加価値が存在すると思うのです。
その付加価値を語る上で絶対に欠かすことのできない人物がいます。
それは、本楽曲を手掛けた人気ミュージシャンの米津玄師さんです。
(8thシングル)「Lemon」の大ヒットなどで知られる米津玄師さんは、
今や日本を代表する音楽クリエイターと言っても過言ではありません。
そのような人物が、時代の最先端サウンドを突き詰めるのではなく、
老若男女に愛されるような作品で新たな境地を模索するチャレンジ。
そして、それが結果として多くの人々に愛される作品へと昇華する。
これは、日本の音楽界においてとても素晴らしいことだと思います。
性別や年齢、ましてや国境すらも飛び越えてしまう音楽の醍醐味を、
改めて日本のリスナーやミュージシャンに知らしめた「パプリカ」。
時代のトップクリエイターが、音楽の原点を創造することの意義を
簡潔に示したことで、多くのクリエイターが嫉妬したことでしょう。
「パプリカ」に追いつき追い越せから生まれるであろう新たな名曲。
日本の未来の音楽シーンに少なからず影響を与えた本楽曲の存在は、
リスナーよりもクリエイターにとって大きな刺激になったはずです。
Chapter 2:「シンプル」に深みを与える楽曲構成
「パプリカ」の楽曲構成は、一聴すると簡単なように思えますが、
メロディーライン以外にも、実は色々と仕掛けが施されています。
- イントロ -
シンプルなドラムのリズムのみで構成される短いイントロですが、
バックに子供たちが仲良くじゃれ合っている音源を入れています。
この部分は、通常であれば、必要のないギミックだと思いますが、
本楽曲のイメージを構築する上でもの凄くプラスになっています。
全体的に優しい音色で奏でられるサウンドアレンジもそうですが、
このじゃれ合い部分を最初に組み込むことで温かみがより際立ち、
楽曲そのものに何とも言えない「無垢」な印象を纏わせています。
- A・Bメロ -
AメロとBメロを比べてみると、主旋律はもちろん異なるのですが、
歌いだし部分に関しては、どちらも同じ譜割りを繰り返しています。
(Aメロ:曲がり くねりの部分 Bメロ:夏が来る 影が立つの部分)
この部分は、童謡などの子供向けの楽曲によく使われる手法ですが、
同じ言葉 (歌詞) を配置しない所に米津さんのセンスが感じられます。
加えて、Aメロは同じ音程なのに、Bメロは音程を微妙に変えている。
歌いやすいシンプルな楽曲構成の中に絶妙な違和感を持たせる旋律。
違和感を違和感に感じさせない細かいテクニックが随所に光ります。
もちろん、サウンドアレンジにも飽きさせない工夫が施されており、
リズムパターンだけでなく、バックの音もA・Bメロで変えています。
とてもシンプルですが、サビへの期待感を高める良いアレンジです。
- サビ -
サビは楽曲の主役ですが、中でも一番目立つ部分がサビ始まりです。
そのサビ始まり部分にタイトルの「パプリカ」を配置していますが、
ここに本楽曲の魅力が詰まっていると言っても過言ではありません。
最初に注目すべきは、歌詞の中で突然登場するカタカナの響きです。
Aメロ~Bメロまでの歌詞は、日本語のみで構成されていましたが、
サビ始めにカタカナを入れることで心地良い違和感を与えています。
半濁音二文字から始まる「パプリカ」は、インパクトも抜群ですね!
ですが、最も注目すべきなのは、歌詞ではなく、サビ始めの譜割り。
この部分の譜割りを見てみると、Bメロの最初(の4文字)と同じです。
つまりは、Bメロとサビの導入部分が同じリズム構成になっています。
こうすることで、サビの音程と歌詞のインパクトがより際立ちます。
しかも、サビでは最後に休符を入れて微妙にリズムを変えています。
(Bメロ4文字目は四分音符だが、サビ4文字目は八分音符+八分休符。
分かり易く言うと、4文字目の音符の長さをわざと半分にしている。)
シンプルな楽曲構成の中に自然に溶け込む通好みの細かいギミック。
懐かしさと新しさが共存する唯一無二の世界観がここに存在します。
音楽理論的なことを言えば、A・Bメロとサビではキーが異なるなど、
他にも色々と面白い仕掛けが施されているのですが、何と言っても、
老若男女問わず「良い曲」だと素直に思えることが本当に素晴らしい。
そう考えると、A・Bメロも含めてサビと言っても良いかも知れません。
本楽曲には、音楽理論だけでは語れない何か不思議な魅力があります。
Epilogue - 究極の「最高」とは -
物事に賛辞を贈る言葉としてよく使われる「最高」の二文字。
色々なシチュエーションで使用できるとても便利な言葉です。
「最高」という言葉のイメージは、それこそ千差万別ですが、
おそらく、多くの人が思う「最高」のイメージは、
ごく僅かの人しか手にすることのできないような、
程度の一番高い高級品のようなイメージではないでしょうか?
もちろん、それはそれで最高の意味として正しいと思います。
ですが、誰にでも手に入れることができて、その良さが分かる。
そういうものこそ、究極の最高と言えるのではないでしょうか?
そう考えると、人間にとっての最高とは、
高級な洋服や食料品を得ることではなく、
「今ここに生きている」ということに尽きるのかもしれません。
今回、「パプリカ」をじっくり聴いてみてしみじみ思ったのは、
「生きていること」は普通ではなく特別な事なんだということ。
明日も、今と変わらない自分が存在する。
これは、ある意味、これ以上ない幸せなことかもしれませんね!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
パプリカ - Foorin (2018)
Lyrics:米津玄師 / Music:米津玄師