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50年後も聴き続けたい美しい旋律 #07「Longing / Love」

50年後も聴き続けたい美しい旋律
今回は、美しさと切なさが共存する現代ピアノの傑作。

George Winstonの「Longing / Love (あこがれ / 愛) 」をご紹介します。


Prologue -ピアノ作品の芸術性-


ピアノの音というものは、
表面的には無機質で感情のない音のように聴こえます。

ですが、一つ一つの音が重なり合って織りなす調べは、 
ときに人の心を激しく揺さぶるほどの感動を与えてくれる。

異なる音階と音の強弱だけで感情を表現するピアノ作品は、芸術性が高く、多くの人に愛されています。

今回ご紹介するピアノ作品に限らず、
インストゥルメンタル作品には言葉(歌詞)が存在しません。

なので、ラブソングを制作する場合、
音だけで「好き」や「愛している」という感情を表現することになります。

これは、我々が想像するより難しく、
演劇で例えるならば、演技だけ(セリフなし)で感情を表現するようなもの。

インストゥルメンタル作品の制作は本当に難しく、一筋縄ではいきません。

皆さまも、このジャーナルを通して、
インストゥルメンタル作品の奥深さを感じていただければ嬉しい限りです。


Chapter:1 -癒しのピアニスト-


アメリカの有名ピアニストでもある、
George Winston (ジョージ・ウィンストン) 。

彼の自然風景を反映するピアノプレイは、
ニューエイジ (癒し系音楽) という音楽ジャンルを確立しました。

スタインウェイ (繊細な高音域が特徴的な世界三大ピアノの一つ) の美しい音色で奏でられる名曲の数々。

そのどれもが美しく、そしてあたたかい。

残念ながら、もう二度と彼の生演奏を聴くことはできませんが (2023年6月4日に永眠) 、
生前に紡いできた癒しの旋律は永遠に色褪せることなく、我々の心の中で生き続けます。


Chapter:2 -クラシック作品にも匹敵する美しい旋律-


ピアノ作品の中で多くの人に知られている楽曲は、
クラシック音楽のピアノ作品に集約されています。

ショパンのエチュード第3番 (別れの曲として有名) やリストのノクターン第3番 (愛の夢) 、
ヴェートーベンのピアノソナタ第14番 (月光) などは、一度は聴いたことがあるでしょう。

私自身、子どもの頃からピアノの音色が大好きで、
今まで数えきれないくらいのピアノ作品を聴いてきました。

その中でも、今回ご紹介する「Longing / Love」は、
クラシック作品にも匹敵する程の完成度だと思っています。

静寂 (休符部分) でさえも旋律の一つとして役割をなしているかのような完璧な楽曲構成。
9分を超える大作 (5分ver.も存在) にもかかわらず、一つとしてムダな部分がありません。

George Winstonのピアノ・ソロアルバムの中でも、
大名盤として知られている「AUTUMN (オータム) 」。

その3曲目に収録されている「Longing / Love」は、
50年後、いや100年後も変わらずに愛され続けるであろう、現代ピアノ作品の傑作です。


Last Chapter -ピアノで奏でる究極のラブソング-


「誰かに、憧れや恋心を抱く。」

「喜び」や「苦しみ」という真逆の感情が共存するこれらの難しい心情を、
「Longing / Love」は、言葉ではなく、ピアノの音だけで表現しています。

- Prologue -
やや強めのタッチで奏でられるプロローグは、旋律というよりも、
アルペジオ(分散和音:和音を一音ずつ鳴らす奏法)のような印象。

同じ譜割りの繰り返しなので、一見すると無意味のようにも思えるが、
ルバート演奏(テンポやリズムを弾き手の自由な速さで演奏)も相まって、言葉では表現できない切なさを表現しています。

1分15秒過ぎから、(本楽曲の一番の聴きどころでもある) メイン部分へと切り替わるのですが、
最初の一音(「ド#・ミ・ソ#」の和音で構成される3つの音を同時に弾く)がとにかく完璧です!

(ピアノは右手を高音部分、左手を低音部分というように、分けて弾くのが一般的。)
右手(高音部分)だけで構成されるプロローグよりも、約1オクターブ低くなるメイン部分の旋律。

この急激な音程の落差が、理想と(理想と異なる)現実の対比を見事に演出しているのです。

「この前奏(プロローグ)は必要ないのでは?」と感じるリスナーもいるかもしれませんが、
個人的には、この前奏があることで、メイン部分の旋律の美しさ(深さ)をより引き立たせていると思っております。

- Main -
本楽曲のメイン部分は、テレビ番組やCM等で度々使用されているので、一度は聴いたことがあるかもしれません。

かくゆう私も、本楽曲との出会いはテレビ番組の天気予報であり、
バックで流れていたこの美しい旋律に一瞬で心を奪われたことを、昨日のことのように覚えています。

ショパンやリストの作品と比べても遜色がない主旋律(右手パート)の美しさは、
「完璧」という言葉でも形容しきれないくらいの発明なのではないでしょうか?

ですが、その主旋律をも上回る部分があります。
それは、低音域を奏でる左手パートの部分です。

通常、左手パート部分は、主旋律の補佐的な役割をするのが一般的で、
分かりやすく言うならば、主旋律を引き立たせる旋律で構成されます。

しかしながら、本楽曲のメイン部分に関しては補佐的な役割ではなく、
明らかに主旋律の一部として、左手パート部分が機能しているのです。

この両手が交わるシンクロニシティこそが本楽曲の最大の魅力であり、
それを実現させた左手パートの旋律こそ一番賞賛すべき発明なのです!

この印象的なメイン部分は、(1曲の中で)計4回組み込まれていますが、
弾き方を微妙に変えており、微差ですがそれぞれ違う印象を受けます。

基本的には同じ旋律であるにも関わらず、
ちょっとしたタッチの加減や音符の変更によって異なる世界観を演出。

このほんの僅かな変化が絶妙なスパイスとなり、
ピアノの音一つで恋愛における人間の複雑な心模様を表現しています。

途中途中(2回目と3回目&3回目と4回目の間)の、
(アルペジオが中心の) 優雅な旋律が素晴らしく、ストーリー性も完璧。

一曲の中で日本の四季のように印象が変化する、他に類を見ない楽曲構成は必見。

まさに、George Winstonの類い稀なる才能が凝縮された一曲と言えるでしょう!


Epilogue -Longing / Love-


人は一人では生きられません。

なぜならば、たった一人では、自分の存在意義を確かめることができないからです。

今回ご紹介した「Longing / Love」は、
一般的にはラブソングとして認知されていると思います。

ですが、誰かを愛するということの意味。
そして、人から愛されているという尊さを教えてくれる楽曲でもあると思うのです。

皆さまも、大切な人を思いながら、一度聴いてみてください!

美しいピアノの音色が紡ぐ珠玉のラブストーリーが、
あなたの心に優しく寄り添ってくれることでしょう。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


Longing / Love - George Winston (1980)
Music:George Winston

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