Jul 01, 2025
LOVE イントロ講座
(2025年2月末をもって)
SONYがMD (ミニディスク) の生産終了を発表した。
1992年に製品化されたMDは、
カセットテープに代わる高音質のデジタルメディアとして、
2000年代中ごろまで多くのリスナーに重宝されてきました。
しかしながら、
iPodに代表されるデジタル音楽プレイヤーの普及によって、
その存在価値は低くなり、結果、生産終了を迎えてしまう。
正直なところ、
CDが消える(必要とされなくなる)のも時間の問題でしょう。
技術の進歩というものは、何かの始まりを生み出しますが、
それと同時に、何かを終わらせるきっかけを生み出します。
私自身、
MDやCDの衰退を子供の頃から何となく予見していましたが、
音楽界における技術革新は、予期せぬ変化をもたらしました。
それは、音楽 (楽曲) に対する向き合い方です。
(サブスクリプションサービスの影響もあって)
音源をデータとして扱うことが当たり前となった今の時代、
シングルやアルバム単位で購入する人も少なくなりました。
一曲単位で楽曲を選ぶことができるのはとても便利ですが、
アルバムのように世界観を大事にする音楽作品に関しては、
曲順に込められたメッセージ等を感じることはできません。
加えて、技術革新の影響が如実に表れたのがイントロです。
ストリーミング再生回数がヒットチャートを左右する昨今。
ヒット曲を見てみると、イントロの無い楽曲が目立ちます。
もちろん、イントロのある楽曲もあるにはあるのですが、
秒数に着目してみると、10秒未満のもので溢れています。
おそらく、(一般的に) 30秒以上再生されないと「1再生」
としてカウントされにくいストリーミングの技術的問題と、
アーティスト側の意図した戦略が影響しているのでしょう。
これらは、リスナー(特に若い世代)への配慮もありますが、
イントロを愛するものにとっては、少し寂しい気もします。
そこで今回は、
イントロをもっと好きになってもらうべく特別講座を開講!
あなたの知らないイントロの魅力を語りつくしていきます。
Lesson 1 : 音で奏でるプロローグ
英語で「導入」や「序論」を意味する
「Introduction (イントロダクション) 」
音楽で用いられるイントロの語源も、
上記のIntroductionを省略したものになります。
そもそもイントロとは、
音のみで構成される(歌詞のない)パートであり、
曲の冒頭で歌手が歌い出す前の部分を指します。
イントロに類似するパートとして、
「アウトロ」や「間奏」などが挙げられますが、
これらの違いは、基本、位置の違いによるもの。
イントロ・・・歌手が歌い出す前の冒頭パート
アウトロ・・・歌手が歌い終わった後のパート
間奏・・・曲途中に器楽のみで演奏するパート
イントロは、本編 (Aメロ~) が始まるまでの単なる
オマケ程度にしか思わない人もいるかもしれません。
ですが、リスナーがまず初めに耳にするイントロは、
楽曲の世界観を印象づけると言っても過言ではなく、
その出来が曲全体の完成度に大きな影響を与えます。
ボーカルの歌声(主役)が絡まない演奏パートなので、
もしかすると、あまり目立たないかもしれませんが、
音楽作品にとっては非常に重要なパートになります。
分かり易く例えるならば、
音のみで奏でるプロローグといった感じでしょうか?
また、連続で複数の楽曲を楽しむ際にも効果があり、
イントロがあることで切り替えがしやすくなります。
これは個人的な心情になるのですが、イントロこそ、
サビと同様に魅力あるパートであると信じています。
しかしながら、名曲と呼ばれている音楽作品の中には、
イントロの無い楽曲も、当然のように存在しています。
なぜ、それらの楽曲は、その構成で成立しているのか?
もっと言えば、
イントロが無いことで得られる効果とは一体何なのか?
次は、イントロの無い楽曲の特徴を紐解いていきます。
Lesson 2 : イントロが存在しない世界
イントロの無い楽曲は、主に以下の二つに分かれます。
・サビから始まる楽曲
・Aメロから始まる楽曲
一つ目のサビから始まる(通称:サビ始まり)楽曲に関しては、
アップテンポの楽曲と非常に相性の良い構成となっています。
最初にサビ(主役)を持ってくるということは、目立たせたい、
勢いが欲しいということなのでテンポも必然と早くなります。
また、最初にサビを聴かせることで、楽曲の印象も強くなり、
リスナーの期待感を高める(煽る)ことにも繋がっていきます。
サビにはそれほどのパワーがあり、インパクトもあるのです。
「いやいや、目立つイントロを配置すれば良いじゃないか?」
と思われる方もいるでしょうが、実はある問題が発生します。
イントロがあるということは、ある意味、普通の構成であり、
リスナーからしてみれば、それほど驚くことではありません。
イントロを無くすだけで、「普通とは違う」という印象を与え、
さらに、楽曲の主役であるサビをより目立たせることもできる。
中には、イントロを挿入したサビ始まりの楽曲も存在しますが、
そのほとんどが10秒に満たないほどの短いものになっています。
イントロの存在を消すことで、新たな魅力を植え付けるという
逆転の発想が功を奏したこの構成は、ライブ演奏にも効果絶大。
イントロの特性を上手く利用した、素晴らしい構成の一つです。
次に、Aメロから始まる楽曲の特徴について説明していきます。
Aメロから始まる構成の一番特徴は、
Aメロとサビのパワーバランスが通常とは異なるということです。
J-POPの基本構造は「Aメロ(導入)+Bメロ(繋ぎ)+サビ」ですが、
この場合、サビのメロディを最も印象的に設定するのが常識です。
なぜならば、先ほども言った通り、サビはその楽曲の主役であり、
最も目立たせることで他のパートとの差別化を明確にしています。
だから、同じ様なパワーバランスでAメロ始まりの構成にすると、
イントロが無い分、必要以上にサビの印象が強くなる危険がある。
加えて、「イントロが無い(普通とは違う)」という印象も大きく、
さらに、脇役であるはずのAメロにスポットライトを当てるので、
リスナーに主役と同様に目立つ脇役がいると勘違いさせてしまう。
なので、Aメロ始まりの場合は、(印象的なAメロのメロディーを)
サビと同じレベルに設定することで全体のバランスが保たれます。
この関係性を分かりやすく例えるならば、
演劇で言うところのダブル主演のようなバランスに似ていますね!
加えて、直ぐに歌の本編から始まるので、
サビ始まりと同様に、ストリーミングに適した構成とも言えます。
結論として
イントロを無くすことで、新たに得られる効果も沢山ありますが、
その効果を引き出しているのは、間違いなくイントロの存在です。
イントロがあるのが当たり前だから、
無くなったときのギャップが大きく、結果、新鮮な印象を受ける。
イントロの無い楽曲からその存在の大きさを改めて教えてもらう。
皮肉なことですが、イントロの重要性を知る上で大事なことです。
ちなみにですが、、、
Aメロのメロディーがサビにも負けないくらい良質ということは、
名曲が生まれやすい構造となっていることにお気づきでしょうか?
Aメロ始まりの楽曲としてヒットを記録した近年の代表曲として、
米津玄師さんの「Lemon」やVaundyの「怪獣の花唄」があります。
どちらも、サビメロディーに加え、Aメロにもインパクトがあります。
(鼻歌を歌う際に、サビよりもAメロの方を口ずさんでいるのでは?)
さらに付け加えるならば、Aメロのメロディー (またはコード進行) を
イントロに設定している曲も名曲になる確率が極めて高いと言えます。
なぜならば、
「イントロに設定する程Aメロが良い=全体的にレベルの高い楽曲構成」
ということになり、自然と良い曲になる可能性が高いと言えるからです。
皆さまも、ぜひ自分のお気に入りの曲の楽曲構成を調べてみてください!
イントロはもちろん、各パートの役割を分析しながら聴いてみることで、
新たな魅力を発見できるかもしれません。それほど、音楽は深いのです。
Lesson 3 : 名曲から学ぶイントロの魅力
ここからは、
実際にイントロがどのように機能しているのかを具体的に説明します。
洋楽・邦楽を代表する名曲の中から、私自身が厳選した楽曲を通して、
イントロの機能性に重点を置いた楽曲紹介をしていきたいと思います。
セレクトした楽曲群についてですが、
幅広い年代で知られている楽曲の方が分かり易いだろうという観点から、
2000年よりも前の作品とさせていただきました。(洋楽5曲・邦楽10曲)
一口にイントロと言っても、色々な効果があるのを知ってもらいたく、
イントロの効果がそれぞれ異なるものをピックアップしたつもりです。
加えて、説明文の前には「注目ポイント」を設け、
個人的に思わず唸ってしまったリスニングポイントを記載しました。
「もしも、このイントロが無かったらどのようになっていたのか?」
名曲として親しまれている作品も、イントロに注目しながら聴くと、
見慣れた景色が思いもよらない絶景に生まれ変わるかもしれません。
それでは、
名曲を創造した名イントロの功績を思う存分堪能してください!
注:楽曲の順番は、発売年(年が同じ場合は月)の古い順とする。
Song Selection 1 : 洋楽から生まれた歴史的なイントロ
Imagine - John Lennon <1971>
- 注目ポイント:シンプルを突き詰めた究極のイントロ -
本楽曲のアレンジはとてもシンプルであり、コード(和音)を一定のリズムで奏でる叙情的なイントロのフレーズも、曲中のピアノ伴奏をそのまま用いています。全体を通して、ピアノの音を主軸とする何の変哲もないアレンジですが、そこには「難しく考えるな!」というメッセージが込められているのかもしれません。加えて、メッセージ性の強い歌詞を印象づける効果も兼ね備えており、本楽曲の一番の魅力でもあるユートピア的な世界観をこれ以上ない形で演出しています。
Every Breath You Take - The Police <1983>
- 注目ポイント:永遠に聴いていられるエバーグリーンなギターリフ -
ロックの名曲群と比例するように、この世の中には数多くのギターリフが存在しますが、このギターリフ以上にエバーグリーンな魅力を放つものはありません。本楽曲を彩るシンプルなギターリフは、自己主張することなく淡々と奏でられていきますが、本楽曲の主役は間違いなくこのギターリフであると断言できます。ボーカルを引き立てながら、イントロやアウトロはもちろん、間奏までも網羅するこの希有なギターリフの存在は、ロック史に燦然と輝く大発明だと思います。
Jump - Van Halen <1983>
- 注目ポイント:イントロがサビ!? 世界一有名なシンセリフ -
Van Halen (ヴァン・ヘイレン) が奏でる本楽曲の超キャッチーなイントロは、日本でも多くのCMで流れているので、一度は聴いたことがあるかもしれません。アメリカを代表するロックバンドでありながら、エレキギターではなく、シンセリフ (電子音) を目立たせるそのトリッキーな構成は全世界に衝撃を与えました。数あるロックの名曲の中でも、これほどまでにイントロをフューチャーさせた楽曲は他にありません。まさに、イントロが主役と化した歴史的名イントロです。
Breakout - Swing Out Sister <1986>
- 注目ポイント:ポップスを代表するお洒落イントロの決定版 -
スウィング・アウト・シスターが奏でる音楽の最大の特徴は、良い意味で時代感を感じさせないクロスオーバーな雰囲気と、センスの良いアレンジ能力の高さ。リズム隊から始まる本楽曲のイントロは、まさに、彼らのセンスが集約されたものとなっており、ポップス史に残る名イントロと言っても過言ではありません。軽快なリズムを際立たせるホーンセクションはもちろん、ベースの音色とリズムパターンも完璧。お洒落イントロの決定版として、ぜひ知ってほしい一曲です。
Bad - Michael Jackson <1987>
- 注目ポイント:ベースが主役の洗練されたリズムイントロ -
(本当は重要なのですが...) いつもは脇役のような役回りのベースを規則的な譜割り (リフ) で構成しながら、それをそのままイントロに採用するという斬新さ。リズムを重要視する洋楽の中にあっても、ここまで振り切ったものは珍しかった (当時としてもかなり画期的だった) と思います。ベースラインに合わせるようにキックベースを配置したり、ベース音もよくよく聴いてみると色々な音を組み合わせている。シンプルな楽曲構成ですが、一つ一つがとても洗練されています。
Song Selection 2 : 日本が誇る名イントロ作品
DESTINY - 松任谷由実 <1979>
- 注目ポイント:失恋ソングの常識を覆したイントロ -
ラブソングのサウンドアレンジは、どの状況 (両想い・片思い・失恋) を歌うかで変化しますが、失恋ソングにおいては、マイナー (暗い) コードが常識でした。本楽曲は紛れもない失恋ソングにもかかわらず、イントロが明るい曲調で始まっています。このイントロには二つの意味があり、一つは楽しかった日々の演出。そしてもう一つは、今回の経験を生かしながら、(失恋した) 今ではなく、未来に希望を抱かせる (前に進む) ためのエールのような意味合いも含まれています。DESTINY (運命) というタイトルのつけ方はもちろん、明るいイントロをアウトロにも採用しながら未来への一歩を後押しするユーミンのセンスが素晴らしい。
君は天然色 - 大瀧詠一 <1981>
- 注目ポイント:無意味なものに意味を与えるという逆転の発想 -
本楽曲のイントロは、サビのメロディーと同様に有名であり、これまで色々なシーンで使用されてきました。一聴しただけで心が躍る超キャッチーなイントロ。おそらく、あの有名なフレーズがイントロの始まりだと勘違いしている人も多いでしょうが、実のところ、その前にちょっとしたギミックを盛り込んでいます。等間隔で弾かれるピアノの音やパーカッションの試し打ち。まるで、ライブの演奏前を思わせるこの一連の流れは、音楽作品としては意味のない(ムダな)部分。そのパートをあえて挿入し、ドラムスティックのカウントを入れてからスタートする。こうすることでライブ感が増し、楽曲が持つ躍動感を際立たせています。無意味なものに意味を与えることよってより強調されるイントロとサビの存在感。リバーブ (音に広がりや奥行きを与えるエフェクト) の効かせ方も最高です!
クリスマス・イブ - 山下達郎 <1983>
- 注目ポイント:変則的な楽曲構成をカモフラージュする王道イントロ -
本楽曲は、「Aメロ (サビ) +Bメロ」という変則的な楽曲構成となっており、J-POPの王道 (Aメロ+Bメロ+サビ) とは異なる展開で物語が進行していきます。にも拘らず、特に何の違和感もなく聴き続けられるのは何故なのか?まず大前提として、本楽曲の旋律及びサウンドアレンジのレベルが高いことは明白ですが、個人的には、王道的なイントロにしたことが功を奏していると思っております。特に、(16秒過ぎからの) ベルの音を皮切りに挿入されるリズム隊が素晴らしく、同じフレーズの繰り返しながら、ベルの音が入る前と後では印象がガラリと変わっており、クリスマス・イブ (本番前日) のドキドキ感を楽しむことができます。
My Revolution - 渡辺美里 <1986>
- 注目ポイント:J-POP史上最も美しいプロローグ -
優しさと美しさが交差する至福の30秒間。J-POPの歴史上最も美しいイントロと言っても過言ではない本楽曲。メロディー自体ももちろん素晴らしいのですが、一番の魅力は何と言ってもメロディーに重なる煌びやかな音色の美しさ。(作曲した小室哲哉さんが音楽の師と仰ぐ)伝説のアレンジャー大村雅朗氏が生み出した唯一無二のサウンドアレンジをバックに繰り広げられる音が主役のプロローグ。音色だけでこれほどまでに惹きつけられるイントロが他に存在するでしょうか?これまで本当に沢山の楽曲と出会ってきましたが、衝撃度という意味ではこれを超えるものはありません。イントロの存在を超えたイントロと言えるでしょう!
ラブ・ストーリーは突然に - 小田和正 <1991>
- 注目ポイント:サビメロディーを取り入れたイントロの教科書 -
イントロにサビのメロディーを採用することは珍しくありませんが、単純に入れれば良いというわけではなく、使い方によっては逆効果にもなってしまいます。イントロの大部分をサビのメロディーにしてしまうと、イントロとサビの境界線が曖昧になり、「サビ始まりで良いのでは?」ということになってしまいます。また、サビを悪目立ちさせるのも良くなく、サビそのものの存在感(魅力)を落とすことにもなりかねません。本楽曲のイントロは、最初からサビのメロディーを登場させるのではなく、イントロの一部分として機能しており、存在感を抑えつつサビの独特なリズム(二拍三連:二拍の長さを三等分)への布石も作っている。まさに、サビを取り入れたイントロのお手本と言って良いでしょう。タイトルをワンフレーズだけで表現してしまった最初のギターカッティングが天才的です。
サヨナラ - GAO <1992>
- 注目ポイント:イントロとAメロが一体となったイントロの極致 -
本楽曲のAメロ部分は、サビの存在を忘れさせるほど素晴らしく、二音ずつで区切られた規則的な譜割りが特徴的です。そんな超印象に残るAメロのメロディーをリバーブの効いた幻想的なサウンドアレンジで際立たせている本楽曲のイントロは、J-POP史の中でも燦然と輝く名イントロと言っても過言ではないでしょう。個人的に聴いて欲しいのは、この時代を象徴する渇いたスネアドラムの音色。ボーカルの声にもマッチしており、綺麗なエレクトリックピアノとの対比も完璧。純粋な日本の楽曲でありながら洋楽の雰囲気も味わえる本楽曲。その絶妙なブレンド具合を最初に示したイントロの中でも、特に映えるスネアの音に注目です!
YAH YAH YAH - CHAGE and ASKA <1993>
- 注目ポイント:一瞬でリスナーの心を掴むイントロの理想形 -
(一般的に) アップテンポの楽曲は、少なからずライブ演奏を意識して制作されるものですが、本楽曲以上にライブ映えするイントロは聴いたことがありません。印象的な最初の一音を皮切りに、ハンドクラップを誘発するギミックを入れながら生音 (ここが重要!) のドラムスでアクセルを入れるパーフェクトなイントロ。絶妙なタイミングで挿入されるホーンセクションや四つ打ちのスネアドラムで進行するサビパートなど、本楽曲を彩るアレンジは全体的にレベルが高いですが、その主役は間違いなくイントロだと思います。リスナーの心を掴むという本来の目的を果たしながら、全体をブラッシュアップさせるイントロの理想形ですね!
ロビンソン - スピッツ <1995>
- 注目ポイント:ミステリアスな世界へと誘う音のドア -
(タイトルの「ロビンソン」というフレーズが登場しない) 様々な解釈ができる歌詞の世界観はもちろん、アレンジにも何か不思議な雰囲気が漂っている本楽曲。草野マサムネさんの美しい歌声に重なる夢見心地なエフェクトが施されたギターと乾いたギターのカッティングの組み合わせが、絶妙な違和感を演出している。そんなミステリアスな世界に誘う本楽曲のイントロは、一見するとどこにでもあるようなギターのアルペジオ(分散和音)だが、必要以上に(4回)繰り返していて、どこか謎めいている。最初に違和感を抱かせることで、ある意味、リスナーに寄り添わない作品へと昇華させており、それが本楽曲の一番の魅力になっている。
田園 - 玉置浩二 <1996>
- 注目ポイント:メッセージ性の強い歌詞を大衆に伝えるためのテクニック (イントロ) -
「生きていくんだ、それでいいんだ。」本楽曲のようにメッセージ性が強い歌詞の場合、最も気をつけなければならないのが誇張しすぎないアレンジバランス。下手に言葉の力強さを強調するような (無意味な) アレンジに仕上げると、お互いの主張がぶつかり合って、それぞれの良さを半減させてしまう恐れがあります。飾り気のないベルの音とともに小気味良いテンポで進行する本楽曲のイントロは、特別な存在ではなく、多くの人が共感できるような大衆性を纏わせています。自然な出会い (イントロ) によって親近感を与えながら、メッセージ性の強い歌詞をリスナー一人一人にエールのような形で伝えるというテクニックが光ります。
ジェットコースター・ロマンス - KinKi Kids <1998>
- 注目ポイント:サビ始まり&サビそのものを際立たせるホイッスル音 -
KinKi Kidsの中でも飛びぬけて爽快なナンバーであり、ライブにも映える本楽曲。サビから始まる楽曲構成もさることながら、何よりもイントロが素晴らしい!目の覚めるようなホイッスル音が響き渡るこのイントロは、秒数にすると6秒ほどしかありませんが、キャッチーなサビにも負けない個性と中毒性があります。このホイッスル音は全てのサビ前で使用されていますが、こうすることで「ホイッスルが鳴るとサビが始まる」という法則をリスナーに意図的に伝えています。イントロは必要ないと思う方もいるかもしれませんが、最初に聴かせるパートだからこそ、色々な仕掛けを仕込むことができます。本楽曲はその良い例ですね。
おわりに、、、
「歌はテクニックじゃない、心だ!」
「ただし、心で表現するためにはテクニックがいる。」
これは、(三谷幸喜さん脚本によるTVドラマ)
「王様のレストラン」の中で特に心に響いたセリフ。
EarCOUTURE's Journalでは、これまで幾度となく、
「アレンジ」の重要性について論じてまいりました。
どんなに素晴らしいメロディーであったとしても、
それを引き立たせるアレンジテクニック次第では、
メロディーそのものの魅力が半減してしまいます。
「イントロ」は、楽曲の最初を彩るパートであり、
リスナーが最初に聴くアレンジパートでもあります。
アーティストが特に力を入れるイントロを聴かない。
この行為は、ある意味、
楽曲のハイライトを聴き逃していることになります。
時間を有効に使う為にイントロを飛ばすのではなく、
イントロを聴くという楽曲の理解度を高める行為が、
結果的には、時間を有効に使うことに繋がっている。
考え方を変えれば、イントロを聴くという行為も、
有意義な時間を過ごすことに繋がらないでしょうか?
本ジャーナルをきっかけにして、
皆さまとイントロを繋ぐ架け橋になれば嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Song Credits
Imagine (John Lennon・オノ・ヨーコ)
Every Breath You Take (Sting)
Jump (Edward Van Halen・Alex van Halen・David Lee Roth・Michael Anthony)
Breakout (Corrine Drewery・Martin Boyd Jackson・Andrew John Connell)
Bad (Michael Jackson)
DESTINY (Lyrics & Music:松任谷由実 / Arrange : 松任谷正隆)
君は天然色 (Lyrics:松本隆 / Music & Arrange : 大瀧詠一)
クリスマス・イブ (Lyrics & Music & Arrange:山下達郎)
My Revolution (Lyrics:川村真澄 / Music:小室哲哉 / Arrange : 大村雅朗)
ラブ・ストーリーは突然に (Lyrics & Music & Arrange:小田和正)
サヨナラ (Lyrics:GAO / Music:階一喜 / Arrange : 山内薫・井上徳雄・GAO)
YAH YAH YAH (Lyrics & Music:飛鳥涼 / Arrange : 飛鳥涼・十川ともじ)
ロビンソン (Lyrics & Music:草野正宗 / Arrange : 笹路正徳・スピッツ)
田園 (Lyrics:玉置浩二・須藤晃 / Music:玉置浩二 / Arrange : 玉置浩二・藤井丈司)
ジェットコースター・ロマンス (Lyrics:松本隆 / Music:山下達郎 / Arrange : 船山基紀)
SONYがMD (ミニディスク) の生産終了を発表した。
1992年に製品化されたMDは、
カセットテープに代わる高音質のデジタルメディアとして、
2000年代中ごろまで多くのリスナーに重宝されてきました。
しかしながら、
iPodに代表されるデジタル音楽プレイヤーの普及によって、
その存在価値は低くなり、結果、生産終了を迎えてしまう。
正直なところ、
CDが消える(必要とされなくなる)のも時間の問題でしょう。
技術の進歩というものは、何かの始まりを生み出しますが、
それと同時に、何かを終わらせるきっかけを生み出します。
私自身、
MDやCDの衰退を子供の頃から何となく予見していましたが、
音楽界における技術革新は、予期せぬ変化をもたらしました。
それは、音楽 (楽曲) に対する向き合い方です。
(サブスクリプションサービスの影響もあって)
音源をデータとして扱うことが当たり前となった今の時代、
シングルやアルバム単位で購入する人も少なくなりました。
一曲単位で楽曲を選ぶことができるのはとても便利ですが、
アルバムのように世界観を大事にする音楽作品に関しては、
曲順に込められたメッセージ等を感じることはできません。
加えて、技術革新の影響が如実に表れたのがイントロです。
ストリーミング再生回数がヒットチャートを左右する昨今。
ヒット曲を見てみると、イントロの無い楽曲が目立ちます。
もちろん、イントロのある楽曲もあるにはあるのですが、
秒数に着目してみると、10秒未満のもので溢れています。
おそらく、(一般的に) 30秒以上再生されないと「1再生」
としてカウントされにくいストリーミングの技術的問題と、
アーティスト側の意図した戦略が影響しているのでしょう。
これらは、リスナー(特に若い世代)への配慮もありますが、
イントロを愛するものにとっては、少し寂しい気もします。
そこで今回は、
イントロをもっと好きになってもらうべく特別講座を開講!
あなたの知らないイントロの魅力を語りつくしていきます。
Lesson 1 : 音で奏でるプロローグ
英語で「導入」や「序論」を意味する
「Introduction (イントロダクション) 」
音楽で用いられるイントロの語源も、
上記のIntroductionを省略したものになります。
そもそもイントロとは、
音のみで構成される(歌詞のない)パートであり、
曲の冒頭で歌手が歌い出す前の部分を指します。
イントロに類似するパートとして、
「アウトロ」や「間奏」などが挙げられますが、
これらの違いは、基本、位置の違いによるもの。
イントロ・・・歌手が歌い出す前の冒頭パート
アウトロ・・・歌手が歌い終わった後のパート
間奏・・・曲途中に器楽のみで演奏するパート
イントロは、本編 (Aメロ~) が始まるまでの単なる
オマケ程度にしか思わない人もいるかもしれません。
ですが、リスナーがまず初めに耳にするイントロは、
楽曲の世界観を印象づけると言っても過言ではなく、
その出来が曲全体の完成度に大きな影響を与えます。
ボーカルの歌声(主役)が絡まない演奏パートなので、
もしかすると、あまり目立たないかもしれませんが、
音楽作品にとっては非常に重要なパートになります。
分かり易く例えるならば、
音のみで奏でるプロローグといった感じでしょうか?
また、連続で複数の楽曲を楽しむ際にも効果があり、
イントロがあることで切り替えがしやすくなります。
これは個人的な心情になるのですが、イントロこそ、
サビと同様に魅力あるパートであると信じています。
しかしながら、名曲と呼ばれている音楽作品の中には、
イントロの無い楽曲も、当然のように存在しています。
なぜ、それらの楽曲は、その構成で成立しているのか?
もっと言えば、
イントロが無いことで得られる効果とは一体何なのか?
次は、イントロの無い楽曲の特徴を紐解いていきます。
Lesson 2 : イントロが存在しない世界
イントロの無い楽曲は、主に以下の二つに分かれます。
・サビから始まる楽曲
・Aメロから始まる楽曲
一つ目のサビから始まる(通称:サビ始まり)楽曲に関しては、
アップテンポの楽曲と非常に相性の良い構成となっています。
最初にサビ(主役)を持ってくるということは、目立たせたい、
勢いが欲しいということなのでテンポも必然と早くなります。
また、最初にサビを聴かせることで、楽曲の印象も強くなり、
リスナーの期待感を高める(煽る)ことにも繋がっていきます。
サビにはそれほどのパワーがあり、インパクトもあるのです。
「いやいや、目立つイントロを配置すれば良いじゃないか?」
と思われる方もいるでしょうが、実はある問題が発生します。
イントロがあるということは、ある意味、普通の構成であり、
リスナーからしてみれば、それほど驚くことではありません。
イントロを無くすだけで、「普通とは違う」という印象を与え、
さらに、楽曲の主役であるサビをより目立たせることもできる。
中には、イントロを挿入したサビ始まりの楽曲も存在しますが、
そのほとんどが10秒に満たないほどの短いものになっています。
イントロの存在を消すことで、新たな魅力を植え付けるという
逆転の発想が功を奏したこの構成は、ライブ演奏にも効果絶大。
イントロの特性を上手く利用した、素晴らしい構成の一つです。
次に、Aメロから始まる楽曲の特徴について説明していきます。
Aメロから始まる構成の一番特徴は、
Aメロとサビのパワーバランスが通常とは異なるということです。
J-POPの基本構造は「Aメロ(導入)+Bメロ(繋ぎ)+サビ」ですが、
この場合、サビのメロディを最も印象的に設定するのが常識です。
なぜならば、先ほども言った通り、サビはその楽曲の主役であり、
最も目立たせることで他のパートとの差別化を明確にしています。
だから、同じ様なパワーバランスでAメロ始まりの構成にすると、
イントロが無い分、必要以上にサビの印象が強くなる危険がある。
加えて、「イントロが無い(普通とは違う)」という印象も大きく、
さらに、脇役であるはずのAメロにスポットライトを当てるので、
リスナーに主役と同様に目立つ脇役がいると勘違いさせてしまう。
なので、Aメロ始まりの場合は、(印象的なAメロのメロディーを)
サビと同じレベルに設定することで全体のバランスが保たれます。
この関係性を分かりやすく例えるならば、
演劇で言うところのダブル主演のようなバランスに似ていますね!
加えて、直ぐに歌の本編から始まるので、
サビ始まりと同様に、ストリーミングに適した構成とも言えます。
結論として
イントロを無くすことで、新たに得られる効果も沢山ありますが、
その効果を引き出しているのは、間違いなくイントロの存在です。
イントロがあるのが当たり前だから、
無くなったときのギャップが大きく、結果、新鮮な印象を受ける。
イントロの無い楽曲からその存在の大きさを改めて教えてもらう。
皮肉なことですが、イントロの重要性を知る上で大事なことです。
ちなみにですが、、、
Aメロのメロディーがサビにも負けないくらい良質ということは、
名曲が生まれやすい構造となっていることにお気づきでしょうか?
Aメロ始まりの楽曲としてヒットを記録した近年の代表曲として、
米津玄師さんの「Lemon」やVaundyの「怪獣の花唄」があります。
どちらも、サビメロディーに加え、Aメロにもインパクトがあります。
(鼻歌を歌う際に、サビよりもAメロの方を口ずさんでいるのでは?)
さらに付け加えるならば、Aメロのメロディー (またはコード進行) を
イントロに設定している曲も名曲になる確率が極めて高いと言えます。
なぜならば、
「イントロに設定する程Aメロが良い=全体的にレベルの高い楽曲構成」
ということになり、自然と良い曲になる可能性が高いと言えるからです。
皆さまも、ぜひ自分のお気に入りの曲の楽曲構成を調べてみてください!
イントロはもちろん、各パートの役割を分析しながら聴いてみることで、
新たな魅力を発見できるかもしれません。それほど、音楽は深いのです。
Lesson 3 : 名曲から学ぶイントロの魅力
ここからは、
実際にイントロがどのように機能しているのかを具体的に説明します。
洋楽・邦楽を代表する名曲の中から、私自身が厳選した楽曲を通して、
イントロの機能性に重点を置いた楽曲紹介をしていきたいと思います。
セレクトした楽曲群についてですが、
幅広い年代で知られている楽曲の方が分かり易いだろうという観点から、
2000年よりも前の作品とさせていただきました。(洋楽5曲・邦楽10曲)
一口にイントロと言っても、色々な効果があるのを知ってもらいたく、
イントロの効果がそれぞれ異なるものをピックアップしたつもりです。
加えて、説明文の前には「注目ポイント」を設け、
個人的に思わず唸ってしまったリスニングポイントを記載しました。
「もしも、このイントロが無かったらどのようになっていたのか?」
名曲として親しまれている作品も、イントロに注目しながら聴くと、
見慣れた景色が思いもよらない絶景に生まれ変わるかもしれません。
それでは、
名曲を創造した名イントロの功績を思う存分堪能してください!
注:楽曲の順番は、発売年(年が同じ場合は月)の古い順とする。
Song Selection 1 : 洋楽から生まれた歴史的なイントロ
Imagine - John Lennon <1971>
- 注目ポイント:シンプルを突き詰めた究極のイントロ -
本楽曲のアレンジはとてもシンプルであり、コード(和音)を一定のリズムで奏でる叙情的なイントロのフレーズも、曲中のピアノ伴奏をそのまま用いています。全体を通して、ピアノの音を主軸とする何の変哲もないアレンジですが、そこには「難しく考えるな!」というメッセージが込められているのかもしれません。加えて、メッセージ性の強い歌詞を印象づける効果も兼ね備えており、本楽曲の一番の魅力でもあるユートピア的な世界観をこれ以上ない形で演出しています。
Every Breath You Take - The Police <1983>
- 注目ポイント:永遠に聴いていられるエバーグリーンなギターリフ -
ロックの名曲群と比例するように、この世の中には数多くのギターリフが存在しますが、このギターリフ以上にエバーグリーンな魅力を放つものはありません。本楽曲を彩るシンプルなギターリフは、自己主張することなく淡々と奏でられていきますが、本楽曲の主役は間違いなくこのギターリフであると断言できます。ボーカルを引き立てながら、イントロやアウトロはもちろん、間奏までも網羅するこの希有なギターリフの存在は、ロック史に燦然と輝く大発明だと思います。
Jump - Van Halen <1983>
- 注目ポイント:イントロがサビ!? 世界一有名なシンセリフ -
Van Halen (ヴァン・ヘイレン) が奏でる本楽曲の超キャッチーなイントロは、日本でも多くのCMで流れているので、一度は聴いたことがあるかもしれません。アメリカを代表するロックバンドでありながら、エレキギターではなく、シンセリフ (電子音) を目立たせるそのトリッキーな構成は全世界に衝撃を与えました。数あるロックの名曲の中でも、これほどまでにイントロをフューチャーさせた楽曲は他にありません。まさに、イントロが主役と化した歴史的名イントロです。
Breakout - Swing Out Sister <1986>
- 注目ポイント:ポップスを代表するお洒落イントロの決定版 -
スウィング・アウト・シスターが奏でる音楽の最大の特徴は、良い意味で時代感を感じさせないクロスオーバーな雰囲気と、センスの良いアレンジ能力の高さ。リズム隊から始まる本楽曲のイントロは、まさに、彼らのセンスが集約されたものとなっており、ポップス史に残る名イントロと言っても過言ではありません。軽快なリズムを際立たせるホーンセクションはもちろん、ベースの音色とリズムパターンも完璧。お洒落イントロの決定版として、ぜひ知ってほしい一曲です。
Bad - Michael Jackson <1987>
- 注目ポイント:ベースが主役の洗練されたリズムイントロ -
(本当は重要なのですが...) いつもは脇役のような役回りのベースを規則的な譜割り (リフ) で構成しながら、それをそのままイントロに採用するという斬新さ。リズムを重要視する洋楽の中にあっても、ここまで振り切ったものは珍しかった (当時としてもかなり画期的だった) と思います。ベースラインに合わせるようにキックベースを配置したり、ベース音もよくよく聴いてみると色々な音を組み合わせている。シンプルな楽曲構成ですが、一つ一つがとても洗練されています。
Song Selection 2 : 日本が誇る名イントロ作品
DESTINY - 松任谷由実 <1979>
- 注目ポイント:失恋ソングの常識を覆したイントロ -
ラブソングのサウンドアレンジは、どの状況 (両想い・片思い・失恋) を歌うかで変化しますが、失恋ソングにおいては、マイナー (暗い) コードが常識でした。本楽曲は紛れもない失恋ソングにもかかわらず、イントロが明るい曲調で始まっています。このイントロには二つの意味があり、一つは楽しかった日々の演出。そしてもう一つは、今回の経験を生かしながら、(失恋した) 今ではなく、未来に希望を抱かせる (前に進む) ためのエールのような意味合いも含まれています。DESTINY (運命) というタイトルのつけ方はもちろん、明るいイントロをアウトロにも採用しながら未来への一歩を後押しするユーミンのセンスが素晴らしい。
君は天然色 - 大瀧詠一 <1981>
- 注目ポイント:無意味なものに意味を与えるという逆転の発想 -
本楽曲のイントロは、サビのメロディーと同様に有名であり、これまで色々なシーンで使用されてきました。一聴しただけで心が躍る超キャッチーなイントロ。おそらく、あの有名なフレーズがイントロの始まりだと勘違いしている人も多いでしょうが、実のところ、その前にちょっとしたギミックを盛り込んでいます。等間隔で弾かれるピアノの音やパーカッションの試し打ち。まるで、ライブの演奏前を思わせるこの一連の流れは、音楽作品としては意味のない(ムダな)部分。そのパートをあえて挿入し、ドラムスティックのカウントを入れてからスタートする。こうすることでライブ感が増し、楽曲が持つ躍動感を際立たせています。無意味なものに意味を与えることよってより強調されるイントロとサビの存在感。リバーブ (音に広がりや奥行きを与えるエフェクト) の効かせ方も最高です!
クリスマス・イブ - 山下達郎 <1983>
- 注目ポイント:変則的な楽曲構成をカモフラージュする王道イントロ -
本楽曲は、「Aメロ (サビ) +Bメロ」という変則的な楽曲構成となっており、J-POPの王道 (Aメロ+Bメロ+サビ) とは異なる展開で物語が進行していきます。にも拘らず、特に何の違和感もなく聴き続けられるのは何故なのか?まず大前提として、本楽曲の旋律及びサウンドアレンジのレベルが高いことは明白ですが、個人的には、王道的なイントロにしたことが功を奏していると思っております。特に、(16秒過ぎからの) ベルの音を皮切りに挿入されるリズム隊が素晴らしく、同じフレーズの繰り返しながら、ベルの音が入る前と後では印象がガラリと変わっており、クリスマス・イブ (本番前日) のドキドキ感を楽しむことができます。
My Revolution - 渡辺美里 <1986>
- 注目ポイント:J-POP史上最も美しいプロローグ -
優しさと美しさが交差する至福の30秒間。J-POPの歴史上最も美しいイントロと言っても過言ではない本楽曲。メロディー自体ももちろん素晴らしいのですが、一番の魅力は何と言ってもメロディーに重なる煌びやかな音色の美しさ。(作曲した小室哲哉さんが音楽の師と仰ぐ)伝説のアレンジャー大村雅朗氏が生み出した唯一無二のサウンドアレンジをバックに繰り広げられる音が主役のプロローグ。音色だけでこれほどまでに惹きつけられるイントロが他に存在するでしょうか?これまで本当に沢山の楽曲と出会ってきましたが、衝撃度という意味ではこれを超えるものはありません。イントロの存在を超えたイントロと言えるでしょう!
ラブ・ストーリーは突然に - 小田和正 <1991>
- 注目ポイント:サビメロディーを取り入れたイントロの教科書 -
イントロにサビのメロディーを採用することは珍しくありませんが、単純に入れれば良いというわけではなく、使い方によっては逆効果にもなってしまいます。イントロの大部分をサビのメロディーにしてしまうと、イントロとサビの境界線が曖昧になり、「サビ始まりで良いのでは?」ということになってしまいます。また、サビを悪目立ちさせるのも良くなく、サビそのものの存在感(魅力)を落とすことにもなりかねません。本楽曲のイントロは、最初からサビのメロディーを登場させるのではなく、イントロの一部分として機能しており、存在感を抑えつつサビの独特なリズム(二拍三連:二拍の長さを三等分)への布石も作っている。まさに、サビを取り入れたイントロのお手本と言って良いでしょう。タイトルをワンフレーズだけで表現してしまった最初のギターカッティングが天才的です。
サヨナラ - GAO <1992>
- 注目ポイント:イントロとAメロが一体となったイントロの極致 -
本楽曲のAメロ部分は、サビの存在を忘れさせるほど素晴らしく、二音ずつで区切られた規則的な譜割りが特徴的です。そんな超印象に残るAメロのメロディーをリバーブの効いた幻想的なサウンドアレンジで際立たせている本楽曲のイントロは、J-POP史の中でも燦然と輝く名イントロと言っても過言ではないでしょう。個人的に聴いて欲しいのは、この時代を象徴する渇いたスネアドラムの音色。ボーカルの声にもマッチしており、綺麗なエレクトリックピアノとの対比も完璧。純粋な日本の楽曲でありながら洋楽の雰囲気も味わえる本楽曲。その絶妙なブレンド具合を最初に示したイントロの中でも、特に映えるスネアの音に注目です!
YAH YAH YAH - CHAGE and ASKA <1993>
- 注目ポイント:一瞬でリスナーの心を掴むイントロの理想形 -
(一般的に) アップテンポの楽曲は、少なからずライブ演奏を意識して制作されるものですが、本楽曲以上にライブ映えするイントロは聴いたことがありません。印象的な最初の一音を皮切りに、ハンドクラップを誘発するギミックを入れながら生音 (ここが重要!) のドラムスでアクセルを入れるパーフェクトなイントロ。絶妙なタイミングで挿入されるホーンセクションや四つ打ちのスネアドラムで進行するサビパートなど、本楽曲を彩るアレンジは全体的にレベルが高いですが、その主役は間違いなくイントロだと思います。リスナーの心を掴むという本来の目的を果たしながら、全体をブラッシュアップさせるイントロの理想形ですね!
ロビンソン - スピッツ <1995>
- 注目ポイント:ミステリアスな世界へと誘う音のドア -
(タイトルの「ロビンソン」というフレーズが登場しない) 様々な解釈ができる歌詞の世界観はもちろん、アレンジにも何か不思議な雰囲気が漂っている本楽曲。草野マサムネさんの美しい歌声に重なる夢見心地なエフェクトが施されたギターと乾いたギターのカッティングの組み合わせが、絶妙な違和感を演出している。そんなミステリアスな世界に誘う本楽曲のイントロは、一見するとどこにでもあるようなギターのアルペジオ(分散和音)だが、必要以上に(4回)繰り返していて、どこか謎めいている。最初に違和感を抱かせることで、ある意味、リスナーに寄り添わない作品へと昇華させており、それが本楽曲の一番の魅力になっている。
田園 - 玉置浩二 <1996>
- 注目ポイント:メッセージ性の強い歌詞を大衆に伝えるためのテクニック (イントロ) -
「生きていくんだ、それでいいんだ。」本楽曲のようにメッセージ性が強い歌詞の場合、最も気をつけなければならないのが誇張しすぎないアレンジバランス。下手に言葉の力強さを強調するような (無意味な) アレンジに仕上げると、お互いの主張がぶつかり合って、それぞれの良さを半減させてしまう恐れがあります。飾り気のないベルの音とともに小気味良いテンポで進行する本楽曲のイントロは、特別な存在ではなく、多くの人が共感できるような大衆性を纏わせています。自然な出会い (イントロ) によって親近感を与えながら、メッセージ性の強い歌詞をリスナー一人一人にエールのような形で伝えるというテクニックが光ります。
ジェットコースター・ロマンス - KinKi Kids <1998>
- 注目ポイント:サビ始まり&サビそのものを際立たせるホイッスル音 -
KinKi Kidsの中でも飛びぬけて爽快なナンバーであり、ライブにも映える本楽曲。サビから始まる楽曲構成もさることながら、何よりもイントロが素晴らしい!目の覚めるようなホイッスル音が響き渡るこのイントロは、秒数にすると6秒ほどしかありませんが、キャッチーなサビにも負けない個性と中毒性があります。このホイッスル音は全てのサビ前で使用されていますが、こうすることで「ホイッスルが鳴るとサビが始まる」という法則をリスナーに意図的に伝えています。イントロは必要ないと思う方もいるかもしれませんが、最初に聴かせるパートだからこそ、色々な仕掛けを仕込むことができます。本楽曲はその良い例ですね。
おわりに、、、
「歌はテクニックじゃない、心だ!」
「ただし、心で表現するためにはテクニックがいる。」
これは、(三谷幸喜さん脚本によるTVドラマ)
「王様のレストラン」の中で特に心に響いたセリフ。
EarCOUTURE's Journalでは、これまで幾度となく、
「アレンジ」の重要性について論じてまいりました。
どんなに素晴らしいメロディーであったとしても、
それを引き立たせるアレンジテクニック次第では、
メロディーそのものの魅力が半減してしまいます。
「イントロ」は、楽曲の最初を彩るパートであり、
リスナーが最初に聴くアレンジパートでもあります。
アーティストが特に力を入れるイントロを聴かない。
この行為は、ある意味、
楽曲のハイライトを聴き逃していることになります。
時間を有効に使う為にイントロを飛ばすのではなく、
イントロを聴くという楽曲の理解度を高める行為が、
結果的には、時間を有効に使うことに繋がっている。
考え方を変えれば、イントロを聴くという行為も、
有意義な時間を過ごすことに繋がらないでしょうか?
本ジャーナルをきっかけにして、
皆さまとイントロを繋ぐ架け橋になれば嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Song Credits
Imagine (John Lennon・オノ・ヨーコ)
Every Breath You Take (Sting)
Jump (Edward Van Halen・Alex van Halen・David Lee Roth・Michael Anthony)
Breakout (Corrine Drewery・Martin Boyd Jackson・Andrew John Connell)
Bad (Michael Jackson)
DESTINY (Lyrics & Music:松任谷由実 / Arrange : 松任谷正隆)
君は天然色 (Lyrics:松本隆 / Music & Arrange : 大瀧詠一)
クリスマス・イブ (Lyrics & Music & Arrange:山下達郎)
My Revolution (Lyrics:川村真澄 / Music:小室哲哉 / Arrange : 大村雅朗)
ラブ・ストーリーは突然に (Lyrics & Music & Arrange:小田和正)
サヨナラ (Lyrics:GAO / Music:階一喜 / Arrange : 山内薫・井上徳雄・GAO)
YAH YAH YAH (Lyrics & Music:飛鳥涼 / Arrange : 飛鳥涼・十川ともじ)
ロビンソン (Lyrics & Music:草野正宗 / Arrange : 笹路正徳・スピッツ)
田園 (Lyrics:玉置浩二・須藤晃 / Music:玉置浩二 / Arrange : 玉置浩二・藤井丈司)
ジェットコースター・ロマンス (Lyrics:松本隆 / Music:山下達郎 / Arrange : 船山基紀)