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David Fosterが奏でる優雅な魔法の音色

「David Fosterという音楽プロデューサーを知っていますか?」

この質問に対して、
"知っている"と答える日本人は、極々僅かだと思います。

しかしながら、
David Fosterが携わった楽曲を一度も耳にしたことがないという日本人も、極々僅かだと思います。

歌番組などで楽曲を披露する際、曲タイトルの下に「作詞家」と「作曲家」の名前はクレジットされることが多いですが、
編曲家など、楽曲に関わったそれ以外の方々に関しては、CDのブックレットなどを見なければ基本知ることができません。

世に言う裏方と呼ばれる人達は、自分の存在価値を作品の中で示す必要がありますが、
その一方で、その存在 (才能) が影響力となり、業界の流れを大きく変えることがあります。

今回は、音楽業界ではその存在を知らない人はいない世界的な音楽プロデューサー、
David Foster (デイヴィッド・フォスター) の音楽にスポットを当てていきたいと思います。

カナダ出身のDavid Foster (以下:フォスター) は、
世界の名だたるアーティストの楽曲を数多く手がけ、これまでに16のグラミー賞を獲得。

CDの総売上げは、全世界で5億枚以上と言われています。

Andrea Bocelli (アンドレア・ボチェッリ)
Céline Dion (セリーヌ・ディオン)
Earth, Wind & Fire (アース・ウィンド・アンド・ファイアー)
Michael Jackson (マイケル・ジャクソン)
Whitney Houston (ホイットニー・ヒューストン)

これは、フォスターが手掛けたアーティストのほんの一部ですが、
普段洋楽をあまり聴かない人でも、一度は耳にしたことがあるであろうビッグネームばかりです。

今年の夏、日本では東京オリンピック2020が開催されましたが、フォスターはオリンピックの公式テーマ曲を3度も手掛けています。(カルガリーオリンピックの公式テーマ曲「Winter Games」は超有名です!)

この事実は、下手に色々な受賞歴を語るよりもインパクトが強く、
彼の存在が、音楽プロデューサーという枠を超えている証明でもあります。

幼少期からクラシックピアノを学んでいたこともあり、
音楽理論に精通しているのは言うまでもありませんが、 

フォスターの音楽を語る上で絶対に外すことのできないキーワード、それは「音」です!

ここで言う音とは、"音質"ではなく、"音色"を意味します。

気品に満ちたその音色は、
優雅でありながらロマンティック。

夢の世界にでも迷い込んだような独特な空間の中で奏でられる一つ一つの音色に、
他では決して聴くことのできない特殊な細工 (フォスターの魔法) が施されています。

もちろん、使用している楽器類は、ピアノ・ギター・バイオリンなど、フォスターにしか使うことを許されていないといった特別な楽器などではないのですが、聴こえてくる楽器の音色と響き方が、明らかに他のアーティストとは違うのです。

おそらく、楽器の調律や音響のエフェクター、
さらに言えば、マイクの設置場所や本数など、フォスター自身が生み出した独自のレシピがあるのでしょう。

フォスターサウンドとも呼ばれる幻想的な音色によって、
アーティストのポテンシャルは最大限に引き出されます。

その独創的な音楽性から、
"アーティストの個性をフォスター色に染め上げてしまう"といった批判を受けることもありますが、それは違います。

フォスターの最も優れた才能、
それは「このアーティストに対してのベストな選択は何なのか!?」ということを、的確に見抜くセンスに他なりません。

フォスターの代表的なプロデュース作品の中に、
ホイットニー・ヒューストン (以下:ホイットニー) の「I Will Always Love You (オールウェイズ・ラヴ・ユー)」という曲があります。

映画「ボディガード」の主題歌として、あまりにも有名なこの楽曲。

実はDolly Parton (ドリー・パートン) が1974年にリリースした楽曲のカバーであり、ホイットニーのオリジナルではありません。

オリジナルバージョンはバラード調ではなく、
ゆったり (ほのぼの) としたカントリーソングでした。(ドリー・パートンは、カントリーミュージックの第一人者として知られています。)

(映画の主演でもある) ケビン・コスナーが愛聴していた、Linda Ronstadt (リンダ・ロンシュタット) のカバーバージョンを元に制作されたホイットニー版は、フォスターの魔法 (アレンジ) とともに、世界屈指のバラードへと変貌を遂げることになります。

オリジナルと聴き比べれば、その違いは歴然。
「アレンジが違うだけでこんなにも変わるものなのか?!」と驚かれることでしょう。

楽曲制作において、作詞と作曲が最も重要なプロセスだと思われる方も多いと思いますが、私はそうは思いません。

ファッションで例えるならば、
アーティストは洋服を着る人で、作詞・作曲家はその洋服をデザインする人。

編曲家やプロデューサーなど、それ以外の裏方の人達は、
デザインされた洋服の着こなしを考えるスタイリストといったところでしょうか。

デザインされた洋服がどんなに完璧なものであっても、
着こなしを間違えればその魅力は半減してしまいます。

「I Will Always Love You」を例にとれば、歌声以外の音数を最小限に抑え、ホイットニーの声をしっかり引き立たせています。

"一番のChorus (サビ) までアカペラで歌う"という大胆なアレンジは、歌姫という役柄で映画に出演したホイットニーの魅力を最大限に伝える最良の選択。

永遠に色褪せることのない名バラードは、
フォスターによる最高のアレンジによって完成されたと言っても過言ではありません。

美しい音色とともに生み出されるフォスターの音楽は、
現代の音楽シーンの中でも最高峰の完成度を誇る芸術。

これは個人的なことになりますが、
私がオーディオにハマるきっかけを作ってくれたのもフォスター作品でした。

「この素晴らしい音楽を、もっと良い音で聴いてみたい!」

そう思わせてくれたデイヴィッド・フォスターの音楽には、感謝の気持ちしかありません。

洋楽を聴かれる方は、お手持ちのCDのブックレットを見てみてください。
大好きな楽曲のクレジットに、フォスターの名前があるかもしれませんよ!

フォスターと同じ時代を生き、そして出会えたことを誇りに思います。


最後に、
自称フォスターフリークの私が、どうしても紹介したいフォスター作品があります。

それは、
マイケル・ジャクソンの「Smile」です。

この曲は、喜劇王と呼ばれたチャールズ・チャップリンの映画「モダン・タイムス」の劇中で使用されたインストゥルメンタルのテーマ曲であり、チャップリン本人が作曲を手掛けました。

チャップリンの言葉の中に、
「You’ll never find a rainbow if you’re looking down. (下を向いていたら虹を見つけることはできないよ)」という名言があります。

「Smile」はまさに、この言葉を音楽で表現した名曲です!

マイケル自身も、大のお気に入りだったこの楽曲。(生涯で一番好きだった曲とも言われています)

フォスターバラードのエッセンスを取り入れた幻想的な空間の中で、美しく調和するマイケルの優しい歌声。

ラストのピアノに乗せてスキャットするマイケルが、本当に楽しそうに歌っているのが印象的です。
(音色から察するに、チャップリンにオマージュを捧げたアレンジだと思います。)

アルバム「History: Past Present & Future Book 1」に収録されていますので、気になった方はぜひ聴いてみてください。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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