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50年後も聴き続けたい美しい旋律 #04「木綿のハンカチーフ」

50年後も聴き続けたい美しい旋律
今回は、切ない歌詞と明るい曲調のコントラストが印象的な、太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」をご紹介します。


故郷を離れて都会に出る男性と、
故郷に残された女性との遠距離恋愛の恋模様を描いた切ない物語。

日本の歌謡曲に新しい風を吹き込んだ作品としても知られており、
ひとりの歌手が男性と女性の言葉を交互に切り替えて歌う対話形式での楽曲構成は、当時としても例がありませんでした。

軽やかなストリングスとレトロなギターの音色で彩られるイントロ。
軽快なリズムで親しみやすいメロディーを爽やかに歌い上げるヴォーカル。

もしも、ヴォーカル楽曲ではなく、インストゥルメンタル作品として発表されていたら、
タイトルとも相まって、誰もが愛し合う二人の幸せな日々を歌った曲だと思うでしょう。

なぜなら、全体を通して明るい曲調 (アレンジ) で構成されており、まったくもって切なさを感じないからです。

「木綿のハンカチーフ」は、詞先 (作曲より先に作詞を行う手法) の楽曲ですが、
「失恋」というテーマを選んだ松本隆さんの問いかけに対して、明るい曲調で返した筒美京平さんの心意気 (センス) が素晴らしいです。


この楽曲の一番の魅力。


それは、音楽作品でありながら、
音 (メロディーやアレンジなど) ではなく、言葉 (歌詞) で楽曲の温度を変化させている点です。

テンポを落としたり、しっとりと歌い上げるのではなく、
言葉のニュアンスだけでメロディーの季節を変化させる。

同じ景色でありながら、朝と夜では印象がガラリと変わってしまうように、
同じ曲調でありながら、心が通じ合っている1番と別れを意識する4番では、メロディーの印象が春と冬ぐらい違います。


そして「木綿のハンカチーフ」という曲のタイトル。


通常、失恋をテーマにする際に用いる言葉は、
別れを想起させるような言葉を選ぶことが多いと思います。

ですが、この"木綿のハンカチーフ"という言葉には、
明るい曲調と同様に、切なさを感じさせる要素がまったくありません。

都会へと旅立った恋人と、再び会うことを夢みながら故郷で毎日を過ごす女性。
故郷に残した恋人を思いつつも、都会での楽しい暮らしから離れられない男性。

二人の心が離れてしまったことを悟った女性が望んだ最後の贈り物。

それが、どこにでも売っている安価な木綿のハンカチです。

私は、この木綿のハンカチーフ (タイトル) に込められた思いを次のように解釈しました。

「あなたの温もりを感じながら涙を拭いて、素晴らしい思い出とともにこれからの日々を過ごしていこう。」

二人で過ごした時間。
そのひとつひとつが幸せという名の贈り物だったのでしょう。

(男性に対する) 今までの感謝と、明日から強く生きていこうという決意の表れが、
(最後の) 4番の歌詞に登場する「最後のわがまま」という言葉に凝縮されています。

「愛することの素晴らしさを教えてくれたあなた。最後に忘れることを教えてください。」

「木綿のハンカチーフ」は「失恋」をテーマにした作品ですが、
失恋を"終わり"としてではなく、新しい未来への"スタート(始まり)"として描いているのではないでしょうか!?

時代が移り変わっても、
多くの人を魅了し続ける普遍的な歌詞とメロディー。

多くのアーティストがそれぞれの解釈で歌い継いできたように、
50年後はもちろん、100年後も変わらず歌い継がれていくのでしょう。

永遠に色褪せることのない大切な思い出のように・・・


木綿のハンカチーフ - 太田裕美 (1975)
Lyrics:松本隆 / Music:筒美京平

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